概要
8月23日、インドの無人月面探査機「チャンドラヤーン3号」が月面着陸に成功しました。今まで月面着陸を達成したのはソ連(今のロシア)、アメリカ、中国の3カ国だけだったので、インドが4カ国目です。また、今回は月の南極にも着陸しており、これは世界で初めての偉業です。月探査の目的は南極や北極にある水を調べることです。今回の探査で水について有益な情報が収集できれば、月に人間が居住し、そこに子孫を残すことができるのではないかとの期待が高まりました。
探査機の「チャンドラヤーン」とは、サンスクリット語で「月への乗り物」という意味だそうです。
2008年に打ち上げた第1号は月に氷が存在するということを突き止めました。
2019年の第2号は月面着陸に失敗しました。
日本の宇宙開発
実はこの4ヶ月ほど前、4月には「ispace(アイスペース)」という日本の企業が月面着陸に挑みましたが、残念ながら失敗しています。
このように、日本でも宇宙開発は行われていますが、他国に比べてこの事業は遅れをとっています。
宇宙開発は公務員の時事でも問われます。特に国家公務員では頻出。要点をしっかり覚えましょう。
日本の宇宙産業を担う「JAXA」
宇宙航空研究開発機構(JAXAと呼ばれることが多い)とは、独立行政法人の一つで、政府の宇宙開発を技術面で支えています。
独立行政法人については、行政法などでも出てきますが、簡単にいえば「国の機関と民間企業の中間」のような機関です。国が運営するとなかなかうまくいかないような事業を行います。
ちなみにアメリカの宇宙産業は「NASA(アメリカ航空宇宙局)」という政府機関が担っています。
JAXAが打ち上げた大型ロケット「H2A」
JAXAが現在打ち上げを予定しているロケットの一つが、1996年に開発をはじめた「H2A(エイチツーエー)」。
2001年に1号機を打ち上げて以来、46回のうち45回に成功しています。この成功率は世界でもトップクラスです。
ところで、ロケットを打ち上げる目的はなんだか分かりますか?
答えは、「宇宙空間で調査を行うための人工衛星や小惑星探査機などを積み、宇宙空間へ持っていくこと」です。
2014年にH2Aの26号機が打ち上げられたのですが、このとき小惑星探査機「はやぶさ2」が搭載されていました。
はやぶさ2は、小惑星「リュウグウ」の試料を採取して地球に持ち帰るというミッションがありました。
リュウグウの試料を採取する目的はなんでしょうか。
それは「地球ができた過程を調べるため」です。
地球や火星などの惑星は、一旦ドロドロに溶かされてから固まって今の姿になっています。地球を作った物質は最初の状態から変わってしまっているため、地球の物質を調べただけでは誕生の過程はわかりません。
一方、小惑星というのは太陽系のなかでも火星と木星の間にあります。太陽から遠いため熱もそれほど届かず、誕生してから進化もあまりしていません。
太陽系の8つの惑星の位置関係はこんな感じ。小惑星は地球よりも太陽からの距離が遠いことがわかりますね。
小惑星は、今から46億年前に太陽系が誕生したときのままの物質が残っているのでは?と考えられているため、はやぶさ2を飛ばして小惑星であるリュウグウの試料を採取しようとしているのです。
はやぶさ2のミッションは大成功し、試料を分析した結果、塩や有機物を含む炭酸水や生き物の体内にも含まれるアミノ酸が含まれていました。
この結果から、「色々な生物のもとになる物質は地球でできたのではなく、地球外からもたらされたのではないか?」と考えられています。
このように大活躍したH2Aは現在どのようになっているのでしょう。
この2Aの後継機として「H3」というロケットが開発されました。
H2Aよりも大型なのに打ち上げ費用は半分で済むということで期待が寄せられていましたが、2023年3月にH3の1号機は打ち上げに失敗します。
2023年5月にH2Aの47号機の打ち上げが予定されていたのですが、47号機はH3と同じシステムを使用していたため、H3がダメなら47号機もダメかも…とのことで8月まで延期することになりました。
【追記】
5月から延期され8月26日に予定されていましたがさらに延期。
そして8月28日に予定されていましたが、上空の風が強かったため、またしても延期になりました。
9月15日までの打ち上げを目指しています。
小型ロケット「イプシロン」
2010年に、安い費用で打ち上げが可能な小型のロケット「イプシロン」が開発され、2013年に1号機が打ち上げられました。
直近では、2022年10月に6号機が打ち上げられましたが、失敗に終わっています。
また2023年7月には試験中に爆発を起こしています。
民間企業も宇宙産業に奮闘
2022年12月、日本の宇宙スタートアップの「ispace(アイスペース)」が月面着陸に挑戦しました。
宇宙空間を4ヶ月半航行して2023年4月に月に到着しましたが、残念ながら着陸には失敗してしまいました。
月面着陸は月面に向かう速度の調整が難しく、とても高度な技術を必要とします。
今回インドに先を越されてしまいましたが、もしこれが成功していれば4カ国目の月面着陸、さらに世界初の民間企業による月面着陸が達成されていました。
今後に期待ですね!
各国の宇宙開発の歴史。とくにソ連VSアメリカは他の科目でも出題
社会科学でも出題されることがあるソ連とアメリカの宇宙開発競争をここで勉強してしまいましょう。
「スプートニク=ショック」で宇宙開発競争がスタート
第二次世界大戦の末期ごろから、ソ連とアメリカはお互いに大国同士としてのライバル意識を持っていて、冷戦はスタートしていました。
そして大戦後すぐの1947年、アメリカはトルコに軍事基地を置きました。この基地には、ソ連の首都であるモスクワまで届く爆撃機「B29」を配備していました。爆撃機というのは、核を積んで目的地まで飛び、そこへ核を落とすことができる飛行機で、日本との戦争でも使われました。
そこで恐れたのがソ連です。
トルコから首都のモスクワに核が飛んでくるかもしれない。それならいっそ自分の国からアメリカまで直接届くミサイルを開発しよう!と考えました。
1957年、ソ連は人類初の人工衛星を打ち上げ、「スプートニク号」と命名します。
人工衛星は、地球の軌道上をうろうろしていろんなことを調べています。たとえば、地球上の雲の範囲や温度を調べる人工衛星などがありますが、この情報は天気予報に活用されています。
このソ連の人工衛星打ち上げニュースに特にショックを受けたのがライバルのアメリカでした。「スプートニク=ショック」と名前がつくほどの衝撃でした。
人工衛星は宇宙開発の一環として行われていました。アメリカがショックを受けたのは、宇宙開発で先を越されたからという理由だけではありません。
人工衛星の打ち上げの技術というのは、核ミサイルの打ち上げに使われる技術と同じなのです。
人工衛星を積んでいればロケットとなり、核を積んでいればミサイルとなります。
長距離を飛べるミサイルをICBMといいます。
ソ連はスプートニクの成功とともに、ICBMを使ってソ連から直接アメリカへ核を打ち込むことができるようになりました。
ちなみに、その2年後の1959年、当時のアメリカのアイゼンハウアー大統領は、大統領の別荘地「キャンプデービット」へ、ソ連の最高指導者(一番偉い人)フルシチョフさんを招待しました。
別荘へ招待するというのは、親睦を深めたいという気持ちの表れです。
ソ連を恐れているアメリカは、仲良くしてケンカにならないようにしたのですね。
キャンプデービットについては以下の時事問題の記事で紹介しています。
ケネディ大統領の「アポロ計画」
1961年にアメリカの大統領に就任したケネディさんは、ソ連に追いつこうと宇宙開発に力を入れます。
これが「アポロ計画」。
60年代のうちに月面に星条旗(アメリカの国旗)を立てる!と宣言しました。
今までアメリカの陸軍・海軍・空軍がそれぞれ行なっていたロケット開発を一本化するため、NASAという機関が作られます。
ケネディ大統領が就任した1961年、ソ連は今度は人類初の有人宇宙飛行に成功します。
このときに宇宙へ行ったガガーリンさんは、2時間ほどで地球を一周し、無事に地球に生還しました。
このことで、ソ連はICBMを正確に打ち上げ、正確に目的地へ到達させることができるということも証明しました。
スプートニク=ショックに続き、このニュース。さらに衝撃を受けたケネディ大統領は、アポロ計画をなんとしても成功させたいと思うようになります。
しかし、残念なことにケネディ大統領は1963年、志半ばで暗殺されてしまいました。
そして、1969年にアメリカは人類初の月面着陸を成し遂げます。
アームストロング船長が乗ったアポロ11号が着陸し、しっかり星条旗を月面に立てることができました。
なお、アメリカの月面着陸の10年前、1959年にソ連の無人探査機が月面に到達しています。
しかし、探査機は月面に衝突した形で、アポロ11号や今回のチャンドラヤーン3号のようにふわっと着陸する「軟着陸」ではありませんでした。
1966年に、ソ連は月面への軟着陸を成功させます。
よって、世界初の月面着陸はソ連、世界初の人類による月面着陸はアメリカ、ということになります。
アメリカとソ連の冷戦の中で宇宙開発が進められてきたのです。
最後に
国内の宇宙開発に関するニュースは時事問題で、米ソの宇宙開発については社会科学で出題があります。
それぞれ別の分野として覚えるのではなく、関連させて覚えることで暗記しやすく、忘れづらくなります。
今後も幅広く教養試験に対応できるような記事をアップしていきます!