概要
ロシアのウクライナ侵攻から続く深刻な輸入資源の価格上昇が一服したことで、今年6月で3ヶ月連続の交易条件の改善がみられました。日本の企業が貿易で稼ぎやすくなることで利益が増え、設備投資や従業員への賃上げにお金を回しやすくなりました。また、販売価格も上昇しており、業績改善に期待する企業も増えています。このままうまくいけば、長いデフレからの脱却も可能になるのではないかといわれています。
交易条件とは?分数の知識も使って考える
交易条件とは、輸出物価 ÷ 輸入物価 で算出し、貿易で稼ぐ力を表しています。
わかりやすい例で考えてみます。
日本が自動車を合計で100万円輸出し、石油などの資源を合計で50万円輸入しているとします。
このときの交易条件は\(100\div50=2\) です。
その後、資源の価格が高騰し80万円になってしまいました。
このときの交易条件は\(100\div80=1.25\) に減ってしまいました。
売る値段は変わらないのに、買う値段が高くなってしまったので不利になってしまったのですね。
輸出価格・輸入価格と交易条件の関係は、分数を使うととてもわかりやすいです。
輸出物価 ÷ 輸入物価 を分数で表すと\(\displaystyle\frac{\text{輸出価格}}{\text{輸入価格}}\) となります。
輸出価格が上がる(=分子が大きくなる)と交易条件の数値は大きくなる、つまり改善します。
輸入価格が上がる(=分母が大きくなる)と交易条件の数値は小さくなる、つまり悪化します。
この分数での考え方がよくわからない方は、分数の基本の記事でわかりやすく解説しているのでご覧ください。
今までの交易条件の変化
日本の貿易のスタイルは、交易条件が悪化しやすい構図になっています。
日本は石油や天然ガスなど、ものづくりの材料になる資源のほとんどを輸入に頼っているので、資源価格の上昇により輸入価格が急激に上がってしまいます。
今までも輸入している国が戦争を起こしたり、その国で災害が起こったりした場合に資源を日本へ運ぶことができず、価格が上昇してしまったことがありました。
日本の資源の輸入については、後ほど解説します。試験頻出の話題なのでぜひチェックしてね!
2021年から2022年の夏までは、輸入価格の上昇に苦しめられました。要因は2つ。
2021年4月から経済活動が復活し始めたことと、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻したことです。
世界中で経済活動が再開すれば、資源の輸入も増え、価格が上がります。
ロシアとウクライナが戦争を始めれば、ロシアからの資源の輸入がストップして価格が上がります。
2022年7月には、前年同月と比べて50%も上昇してしまいました。
それなのに日本からの輸出品の価格は20%ほどしか上昇しませんでした。
高くモノを買っているのに安くしか売れないということですね。
この最悪な状況が改善されてきたのは、2022年の秋ごろからです。
資源価格の高騰が一服してきました。
交易条件の改善とともに、日本の景気も拡大!?
2022年9月ごろから資源の高騰が落ち着いてきて、今年4月には輸入物価指数は前年同月比がマイナスになりました。
簡単にいえば、去年の4月よりも輸入価格が安いということです。
輸入価格が下がれば交易条件が改善します。
なお、貿易で稼ぎやすくなっただけではなく、国内でみた景気も改善傾向にあります。
国内も含めた最終需要を輸入額で割った値、つまり 最終需要 ÷ 輸入額 の値は、4月から7月の3ヶ月連続で上昇しています。
企業も業績が改善するのでは?と期待しています。
「全国企業短期観測調査(日銀短観)」といって、日銀が3ヶ月ごとに実施する企業への調査がとても参考になります。日銀短観は試験でも頻出です。
今年6月に実施した調査では、大企業の23年度の売上高経常利益率は8.18%で、3ヶ月前の調査より0.3ポイント上昇しました。
また、企業が販売価格をどれくらい値上げしたのかを示す販売価格判断DIは、製造業で34となっています。
昨年末あたりから、第二次石油危機で物価が高騰した1980年以来の高水準で推移しています。
2007年にも資源価格の上昇がありましたが、このときのDIは3ほどだったので、今回がいかに高水準かわかりますね。
ちなみにこのときは、産油国が石油の値段が下がり過ぎて儲からなくなってしまったので、値段を上げるために産油国で話し合って供給を制限したことが原因でした。
このときに企業は販売価格を上げることはしなかったので、販売価格判断DIもそれほど高くなかったのです。
日銀短観で調査される「販売価格判断DI」
時事問題で頻出の日銀短観。
せっかくなので販売価格判断DIと、名前が似ている業況判断DIについて理解しちゃいましょう。
販売価格判断DIは、(販売価格が「上昇」と答えた企業の割合)ー(「下落」の割合) で算出されます。
値が大きくなればなるほど、企業が販売価格の値上げを積極的に行っていることがわかります。
「企業が値上げをする」と聞くと、消費者にとってはあまりうれしくないのですが、
企業にとっては、商品を高く売ることができるので、利益を出しやすくなります。
それによって従業員の給料も上げることができれば、物の値段が上がっても消費者は困りません。
業況判断DIは、(景気が「良い」と答えた企業の割合)ー(「悪い」の割合) で算出されます。
値が大きくなればなるほど、企業が現在の景気を「良い」と考えていることがわかります。
おまけ:数字を見るとヤバさがわかる!日本の資源の海外依存度
エネルギー問題は、時事問題や社会科学でも出題のある分野なので、今後のためにもぜひ頭に入れておきましょう。
日本のエネルギー自給率は11%。つまり9割を輸入に頼っています。
石油や天然ガスなどが日本では採れないので仕方ないですね。
ただ、資源を他国に頼ればそれだけ他国の事情に振り回され、資源の供給が不安定になるリスクもあるということです。
石油はモノを作る材料になるほか、発電にも使われます。石油の供給が途絶えたら日本人は生活できません。
そこで、資源のない日本が石油に頼らず発電しよう!と発明したのが原子力発電所です。
2000年ごろは原子力発電が全体の34%を占め、その後も25%前後で推移していました。
そして、2011年に東日本大震災が起こります。
原子力発電所が停止に追い込まれてからは、1桁台にまで下がっています。
原子力に頼れない現在は、石油と天然ガスで60〜70%を占めています。
エネルギー自給率については、2010年まではおよそ20%でしたが、震災後からは6〜12%ととても低くなっています。
日本がエネルギーを輸入しているのはどの地域か知っていますか?
中東の地域が9割を占めます。
輸出した石油で儲かり(オイルマネーといったりします)、経済発展を遂げた国々もたくさんあります。
このように石油の恩恵を受けた人がとんでもないお金持ちに、逆に受けられない人は貧しくなり、格差が広がりました。
最後に
今回は資源・貿易・景気に関する時事テーマとエネルギー問題を複合させた話題でした。
自分たちの生活に関わることだからこそ、公務員としても必須の知識です。
しっかり身につけていきましょう。
コメント